モバマスSS「君が喜んだ姿をイメージしながら」

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クリスマス特訓前

[クリスマスナイト]矢口美羽を意識したSSです。
よろしければご一読ください。

「お疲れ様でしたーっ!矢口美羽、今日も元気にレッスン終えてきました!」

元気のいい一声と、冬の冷気を引き連れながら、矢口美羽は事務所の扉を開けた。外の寒気に触れながらも、美羽は特に気にもせずお団子をなびかせる。

「お、帰ってきたか美羽。今日はお前にいい知らせがあるんだ」

担当アイドルのはっきり通る声を聴き、彼女のプロデューサーがデスクの資料をまとめる。そわそわしていたのか、冬の寒さからか、少し体が揺れていた。

「お?いいお知らせとは?」

美羽は、彼の言葉に瞼をぴくっと震わせ、彼の方へ顔を向ける。眼差しには期待がこもっていた。

「お前にクリスマスの仕事を取ってきた!それもファンとの交流だ!」

手に持っていた資料を美羽の方へ向け、プロデューサーは声を張り上げて種を明かす。

「え?ほ、ほんとですか!?」
「ああ本当だとも!最近ファンと直に関わる機会、なかったからな。まあ……グラビア撮影もあるにはあるんだが、というかその撮影のついでにプレゼントお渡し会みたいなものを開くことを頼んだら、スポンサー側が許可してくれたんだ」

少し目線を泳がせながら、プロデューサーは美羽に仕事の詳細を伝える。その時の自分は結構無茶な頼みをしたものだなあと今更ながら冷や汗をかいていた。

「プロデューサーさん、わたしのことそこまで考えてくれてたんですねっ!ありがとうございます!エヘヘ、嬉しいなあ……楽しみだなあ。ファンのみんな、喜んでほしいなあ」
「気持ちが前を向いたようで何より。じゃ、早速当日に向けたプランを色々考えて行こうな」
「はいっ!頑張りますよ!」

彼のささやかな心遣いに、美羽は更に感激したのか、身体を弾ませながらグッとガッツポーズをつくって見せた。外は寒さで満ちていたが、事務所の中と美羽の心はポカポカとした暖気に包まれていた。

翌日、美羽はいち早く事務所へ顔を出し、鞄の中身を広げた。おもちゃ屋のチラシ、デパートのチラシ、通販のカタログなど、様々な広告が顔を出す。

「さて、まずは早速ファンのみんなへのプレゼントを選ばないと……撮影は、まだ先だもんね」

意を決し、美羽は広げたチラシを一つ一つ手に取った。

持ち寄ったチラシと睨めっこして早1時間、美羽の考えは全くまとまらずにいた。

「う~、全然決まらないよ~……はあ、これがいいと思ったら今度はこれもいいかな?って思っちゃうし……」

時計をちらっと見て、美羽は自分の優柔不断さを少し恨めしく思った。そして、ふと自分の手首につけられているブレスレットを見つめる。友達と選んで買った、大切で、思い出深い逸品だ。

「プレゼント、かあ……そういえばアイドルになってからも、いろんなプレゼントや贈り物、考えたっけ……」

ふと口に出すと、美羽の過去のプレゼントが脳裏をよぎった。先に姿を見せたのは、マカダミアナッツチョコ、そして奇抜な姿をした人形だった。

「ハワイでお仕事の時も、買ったっけ、お土産。でもまあ、あの時は……」

チョコの方はともかく、人形の方は失笑を買ってしまったことが蘇る。それが少し恥ずかしくて、美羽は顔を赤らめて少し俯く。
恥ずかしさの中で蘇った次のお土産は、スイカだった。

「夏休み、みんなで一緒に楽しんだ時は、スイカを買って行ったんだったなあ。みんな美味しいって言ってくれたけど……」

その時発したギャグは完全にスルーされた。あの時は空気を読まなかった自分の未熟さもあり、さらに恥ずかしさが増してきた。
それから去年のクリスマスを思い出す。プロデューサーへのプレゼントで、相当悩んだことがあったのを、懐かしげに振り返っていた。

「あの時は友達からハードル上げられ過ぎたんだっけなあ……結局、ストレートに気持ち伝えようと、わたしが一番好きなケーキを買ったんだけど」

その時の、プロデューサーの嬉しそうな笑顔が美羽の脳裏に蘇る。それを感じると、美羽もくすっと笑ってしまった。

「やっぱりそう考えると、相手がもらって嬉しいようなものがいいんだろうなあ。プレゼントは……ウケ狙いじゃダメなんだ」

相手の事を考える。それこそが大事なんだろうと美羽は考える。笑ってもらうためにやることは、いつでも同じではいけない。プレゼントという場面に、ギャグや面白さは合わないのだろうと、美羽ははっきりと感じていた。

「とはいえ……全然まとまらないなあ。カタログ見ても、これじゃあ浮かびそうにない……」

目の前の紙面に目を戻すと、難航する現実に突き付けられる。美羽は、少しも進まない現状に苦しそうに唸る。

「仕方ない……このままじゃ前に進めないし、外に出て色んなものを見てみよう。そうすれば、少しは考えがまとまるはずだし」

窓から外を眺め、美羽は首を縦に振る。机に広げた資料を片付け、外出の準備を進めることにした。


街中の百貨店は、クリスマス商戦と言うべきか、それに因んだグッズが目立つように陳列されていた。どのフロアもそうなっており、町にもクリスマスが近づいていることを、美羽は実感していた。

「わっ、これは雪だるまパーカー、もしかして柚ちゃんが来ていたやつかな?おっ、これはクリスマスのサンタコス……去年加奈ちゃんさんとかが着ていたっけ?なんかアイドルの皆になじんだものもいっぱいあるんだなあ……」

目移りしそうなほど、美羽の目を引く商品が大々的に並べられている。美羽は、まるで宝物庫でも見るようにキラキラした目で周りを見回していた。
暫くそんな調子でクリスマスグッズを眺めていた美羽だったが、突如目線が一点に絞られる。

「こ、これは……」

元々大きい目を更に大きく見開き、目の前の商品に吸い寄せられるように立ち尽くす。コスプレグッズのようにも見えるが、それにしては周りにオーナメントまで施されており、素体もしっかりしている。

「クリスマスハット……いや、ツリーハット……これは、凄い!」

ごくりと唾を飲み、美羽は帽子を手に取る。スイッチのようなものがあったので、押してみる。すると、飾り物のように見えたオーナメントが、光り出した。

「光る!?これ光るの!?わあっ、これは凄い、凄いです!」

ためしに被って、鏡を見てみる。すると、これは非常に目立つし、実にクリスマス、と言った感じがすると美羽には感じられた。というよりも、自分がすでに一足早くクリスマスを感じるほどだった。

「これ付けてプレゼント配れば、きっとクリスマス気分になれるはず……凄く目立つし、なにより、見ていて楽しいし!よし、とりあえずこれ買おう!」

まるで全身に電流が走ったような気分になり、美羽はそのツリーハットを抱える。そして、一目散にレジへと駆けだしていった。


「はーっ、いい買い物ができたなあ……でも」

百貨店を後にし、紙袋を抱えた美羽は、はあとため息をつく。それは白い靄となり、美羽の周囲を刹那の間曇らせる。

「結局プレゼントについてのアイディアは浮かばなかったなあ」

上手く糸口がつかめず、結局振出しに戻っただけだと実感し、美羽は更にため息をつく。そこに広がる白い靄に、美羽ははっとなる。

「あ、もう息が白くなるほど、寒くなったんだ……」

元々あまり寒さを感じない体質だから、美羽はようやく冬の寒気が強まっていることに気付く。ふと自分の掌を見ると、手袋をしていないことに気付いた。ためしにその手でマフラーをしていない首に触れてみる。

「つめたっ!こんなに手が冷たくなっていたんだ……気付かなかった」

今まで気づかなかった自分にも驚きながら、美羽は周りの人たちが厚着をしていることに気付かされる。やはり、冬なんだなと感じると同時に、防寒について無頓着だった自分にも改めて気が付いた。

「あ、もしかしてそこにいるのは……美羽さん、ですか?」
「え?美羽ちゃん?あ、ホントだ!美羽ちゃーん!」

そんな中、突如自分の名を呼ぶ二つの声が美羽の耳に入り込む。声の方向を振り返ると、美羽の目によく知る二人の少女が映った。

「あ、ほたるちゃんと加奈ちゃんさん!」
「こんにちは、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「加奈ちゃんさんですっ!えへへ、美羽ちゃんこんにちは!」

ぺこりと恭しくお辞儀をするほたると、親しげに手をひらひらと振る加奈に、美羽は偶然の幸運を感じて自然と笑顔になる。ちょうど悩んでいたこの時に、親しい友達と会えたのは僥倖だった。

「最近、大分寒くなってきましたよね……」
「うんうん、とっても寒くて、コートとか手袋とかマフラーとか、色々用意しないといけなくなっちゃったよね。可愛い着こなし方法チェックしてるけど、色々あるよねー」
「冬のファッション、って感じだよね。今日の加奈ちゃんとほたるちゃんも、色々着こんでるけど可愛いなあ」

世間話に花を咲かせ、美羽は二人の着こなしをちらっと見る。加奈は赤を基調としたダッフルコートに、ピンクのマフラーを身に付けている。赤メインなところが、かつての加奈サンタを思い出させた。
ほたるは、髪色と同じ黒のトレンチコートで、濃いめの紺のマフラーを巻き付けている。マフラーと同じ色の手袋には、鈴蘭の刺繍が施されていた。
二人の自分らしさを出した着こなしに、美羽は心底素敵だと思った。

「でも、美羽ちゃんも凄いよね。こんなに寒いのに、手袋もマフラーもなしで、風邪とか引かないの?」
「うん、大丈夫。わたし、風邪は引かない主義なんだ!」
「主義、でどうにかなるものなんでしょうか……」

感心する加奈に、得意げになって美羽は答える。そこにすかさずほたるのツッコミが入り、美羽と加奈はまたあははと笑い合った。ちょうど冷たい風が3人の間を拭きぬけて行った。

「あはは、まあそれだけじゃどうにもならないけどね。でも、寒いからこそ、元気一番で行かないと!ってなるんだ」

ぐっとガッツポーズを作り、美羽は陽気に笑う。冬だし寒いけど、美羽はそんなことはあまり気にはならなかった。

「美羽ちゃん、やっぱりすごく元気だなあ。いつも元気なところ、羨ましいよ」

加奈は、美羽のはしゃぐ姿を見て、感心したようにはーっと息を吐く。白い空間越しにも、美羽は眩しく見えた。

「ええ、本当に……美羽さんの温かい元気、私がもらったようにいろんな人に届けられたら、もっと幸せになるでしょうね」

ほたるも、無邪気に笑う美羽を見て、クスリと笑う。心が少し暖かくなったような気がして、それがほたるには心地よかった。

「元気を色んな人に……温かい……」

加奈とほたるの賛辞を受け、美羽はピタッと動きを止める。さっきまで繋がらなかった考えに、一本の線が引かれたような、そんな糸口がつかめたような気がした。

「それだぁ!わたしがみんなに贈れるもの!」

その線から電流が走り、ばらばらだったアイディアが一つに収束される。美羽の頭が突如整理されたようで、美羽は歓喜の声を甲高く上げた。

「え?急にどうしたの美羽ちゃん」

突然火が点いたような勢いになった美羽に、加奈とほたるは戸惑う。

「ありがとう加奈ちゃん、ほたるちゃん!実はわたし、さっきまでファンのみんなへのプレゼントを考えていたの!でも、二人と話して大分まとまったよ!」
「そ、そうだったんだ。なんかよくわからないけど」
「悩みが解決したなら何よりです。ちょっとびっくりしましたけど」

勢いよくぺこりと頭を下げる美羽に、加奈とほたるはまだ少し驚きながらもホッとする。頭をあげた美羽の顔は、さっきより更に眩しく、温かくなっていた。

「そうと決まったらこうしちゃいられない、早速買ってプロデューサーさんたちに見てもらわないと!ということでまたね二人とも!」
「え、あ、ちょっと……」

加奈たちが引き留めようとするのも聞かず、美羽はつむじ風のように街中へと走り去っていった。まるで自分たちを少し温めるためだけにここへ来たように、二人には感じられた。

「行っちゃったね、美羽ちゃん」
「はい、でも……相変わらず温かくて、楽しい人ですね」

さっきより温まり、頬を紅潮させるほたるに、加奈も笑って頷いた。


「さーて、ファンのみんなにも、わたしの元気と、ほたるちゃんたちが言う温かさを、届けるんだ!」

再び意気込み、美羽は洋服店へと足を踏み入れて行った。寒い今だからこそ、温かくなる、そんな楽しいプレゼントを決めに。

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