モバマスSS「君から私へ 私から君へ」

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クリスマス特訓前

[クリスマスナイト]矢口美羽のSSです。
「君が喜んだ姿をイメージしながら」の続編にあたります。

出先から戻り、プロデューサーは千川ちひろから入れてもらったお茶を喉に入れていた。冷え込んだ外から戻ってきた故に冷たくなった体を、温かいお茶が潤す。そうやって体を温め、担当アイドルの帰りを待っていた。
矢口美羽が事務所に戻ってきたのは、それから10分もしない後だった。少し上気した頬を緩ませ、百貨店の紙袋を大切そうに抱えていた。

「おかえり、美羽。その様子だと、プレゼントを決めたようだな」

プロデューサーが、美羽の表情から察する。

「はいっ!決めました!わたしがみんなに届ける、贈り物を!じゃんっ!」

得意げに、美羽は紙袋の中身を取り出す。緑の生地が彼女の前に広がった。

「ほう、マフラーに手袋か。随分と温かそうなプレゼントを選んだな」
「はい!えーとですね、最近寒いなーって思って。でもわたしは寒くても元気が溢れてるから、寒くても平気なんです。だから、この温かさをファンのみんなにも届けようかなって思って、温まれるものを選んだんですよー。ちなみに色はツリーを意識してます!」

美羽の説明に、プロデューサーもうんうんと頷く。確かに、今の美羽は外から戻ってきたばかりだと言うのに、少しも寒そうには見えない、むしろ元気が有り余っているようにすら見えた。

「元気な美羽らしいいい考えだな。よし、早速スポンサーの人に掛け合ってみよう」

プロデューサーは、懐から携帯電話を取りだし、一度席を外す。外へと消えた彼の後姿を見届けながら、美羽はくすっと笑って見せた。おもむろにもう一つの紙袋を手に取りながら。

「どうやらオーケーしてくれそうだ、あとは実物を見せて……うわっ!美羽、それは」
「おっ?驚きました?」

再び室内へ戻ったプロデューサーは、美羽の姿を見て目を見開く。美羽が、いや、美羽の頭がクリスマスツリーになっていたのだ。対する美羽は、してやったり、と言ったふうに笑う。

「ああ、いきなり着ぐるみでも着たのかと思ったよ……で、それは何だ?」
「これですか?これはですねぇ、百貨店に売っていたツリーハットです!あまりに素敵だったんで衝動買いしちゃいました!しかも光るんですよこれ!これ被ったまま街中歩けば、もう視線は独り占め間違いなしです!」

得意げに話し、美羽はどんどん盛り上がってはしゃぐ。対するプロデューサーは、美羽の頭に乗っているなかなか精巧なクリスマスツリーを模した帽子に呆気にとられていた。
しかし、それを被る美羽はとても楽しそうで、有り余る元気を放出せんばかりにはしゃいでいた。プロデューサーは、それを見ていると自分まで温かくなったような気になれた。

「お、そうでした。実はプロデューサーさんに、お仕事のことで折り入ってお願いがあるんですけど」
「ん?どうした?」

突然、美羽が神妙になってプロデューサーの方を見る。その表情は、真剣になっていた。

「ファンのみんなへのプレゼントお渡し会は……この帽子をかぶってやらせていただけないでしょうか?わたし、これ凄く気に入っちゃって……」

上目づかいで、美羽はプロデューサーに頼み込む。

「ん?まあ……確かに衣装でやらなきゃいけないとはスポンサーには言われてないしな……」
「お願いします!わたし、どうしてもこの帽子を見て感じた気持ちを、みんなにも感じてもらいたいんです!」

美羽の声のボリュームが上がる。いつの間にか美羽は頭を下げていた。プロデューサーは、少し唸って、すぐにコクリと首を縦に振った。

「わかった。そこまで頼まれちゃ何もしないわけにはいかんな」
「!それじゃあ」
「ああ、スポンサーに頼み込んでみるよ」

彼の承諾を聴き、美羽の表情は再び花咲くような笑顔が宿った。

「やったあ!ありがとうプロデューサーさん!」
「ははは、どういたしまして」
「わたし、それじゃもうちょっと買い足さないといけないものがあるんです!買ってきてもいいですか?」

美羽は、振り切れるようなテンションでピョンピョン跳ねながら尋ねる。14歳にしては少し無邪気な仕草が、プロデューサーにはとても愛らしく見えた。

「ん?ああ、交渉はやっておくから、安心して行ってきな」
「はいっ!よろしくお願いしますね!それじゃ行ってきます!」

言い終わり、もう一度ぺこりと頭を下げたかと思うと、もう美羽は事務所の外へと駆けだしていた。

「まったく、まるでつむじ風みたいなやつだな。そこが面白いんだがな、美羽は」

美羽の去ったドアの方を眺め、プロデューサーはクスリと笑った。


「……で、何だこれは」

再び美羽が戻ってきて、机いっぱいに広げたものに、プロデューサーは頭に疑問符を浮かべる。
机に広がったのは、光るボール、光るモール、星、小さな靴、アンカー、他にもさまざまなクリスマスの装飾が広がっていた。要するに、ツリーに飾るオーナメントが並べられていたのだ。

「オーナメントです!わたし用の!」
「は?お前用?」

美羽の言ったことが、プロデューサーには理解できない。対する美羽は、得意げに、目を光らせている。

「念のために聞くけどさ……これ、一体何に使うんだ?」

プロデューサーの問いに、美羽は目を丸くする。が、一瞬で拳を握らせ、熱く力説を始める。

「何言ってるんですか!勿論、わたしに飾り付ける用ですよ!ツリーハット被るんだから、オーナメントも飾り付けて、よりツリーっぽくしないと。その方が面白いですよ、きっと♪」
「な、何だと!?」

美羽の答えは、プロデューサーにとってあまりに予想もしていないものだった。プロデューサーは、この日何度目かわからない驚嘆の声をあげる。
そして、それと同時に不意を突かれたようで、それがどこか面白く感じられた。

「……ははっ、あはははははっ!」
「ぷ、プロデューサーさん?」
「いやあすまんすまん。あまりにおかしくって。やっぱりお前は最高だよ、美羽」

大笑いするプロデューサーを見て、美羽は自分の胸が温かくなるような気がした。トークで盛り上がった時の、ライブで大きな拍手を貰えた時の、そんな時の快感に似ていた。

「ありがとうございます、プロデューサーさん。そう褒めてもらえるのが、アイドル矢口の自信に繋がりますっ!」
「そうか、それはよかった。それじゃ、早速当日に向けて飾り付けも練習しないとな」

美羽もプロデューサーも、すっかり気持ちが温まっていた。ちょうど窓から、冬になって近くなった日差しが差しこみ、美羽のオーナメントに降り注いでいた。それは、まるで二人の笑顔を讃えるように乱反射して、輝いていた。


プレゼントお渡し会の当日を迎え、美羽は控室で装飾を確認していた。赤いセーターの周りに巻きついたモールやあちこちにつけられた光り輝くオーナメントが美羽を飾り、頭には光るツリーハットを付けて、準備は万端だった。そこへ、ノックの音がする。声からして、プロデューサーだろう。美羽は、入るように促す。言われるがまま入ってきたプロデューサーは、美羽の姿にまたもや驚かされた。

「気合入ってるなあ、美羽。まさに人間クリスマスツリーだ」
「エヘヘー、この日のために、オーナメントが落ちないような歩き方の練習までばっちりですからね!これはもうファンのみんなもばっちり笑ってくれますよきっと!」

特にツリーハットを強調し、美羽はうずうずしている。早く出たくて仕方がない、というように彼には見えた。

「そうだな。そろそろ、始まるはずだ。プレゼントの袋はもう用意されてるから、飾りを落とさないように、行こう」
「はいっ!今日のお仕事、絶対成功させますから!」

プロデューサーに促され、美羽も力強く首を縦に振る。その勢いに押されたのか、飾りのベルがチリン、と鳴っていた。


『それでは、本日の特別イベント!アイドル矢口美羽ちゃんが選んだファンへのクリスマスプレゼントを、美羽ちゃん自身の手でお渡しする時間だぁーっ!それでは、矢口美羽ちゃんに、ご登場していただきましょうーッ!』

司会の号令と共に、会場に集まったファンの歓声が上がる。そしてその感性の渦中に、美羽が飛び込むように駆け出して行った。

「みんなーっ!来ちゃいました!クリスマスの過ごし方に定評のある矢口ですっ!」

姿を現した美羽の姿に、ファンからはどよめきが走る。あるものは笑い、あるものは感嘆の声を上げ、あるものは美羽の言い回しにツッコミを入れる。

「そんな矢口ですが、今日はツリーになってみんなにプレゼントを選んできましたっ!受け取ってくれるかなーっ!?」

会場から、歓声が沸きあがる。少しの動揺があろうとも、何とか勢いで押し切る。美羽の姿勢は、多少強引ながら怯まない姿勢へと変わっていった。

「ありがとう!じゃあ、今日はわたしの元気と笑顔のこもったプレゼント、受け取ってねーっ!」

観客の歓声に包まれる中、美羽は早速プレゼント配布スペースへと駆けだしていく。そしてそのまま、プレゼントお渡し会は幕を開けることとなった。

「はいっ、メリークリスマス!今日は来てくれてありがとう♪」
「美羽ちゃん、今日はツリーなんだね。応援してるよ、頑張って!」

プレゼントを受け取るファンは、その誰もが美羽に声をかけてくれた。ある人は応援を、またある人はツリー姿に対する感想を、そしてまたある人は、幸せそうに美羽への愛を語ったりと、多様なエールが美羽の胸に届いていた。そして受け取る誰もが、温かく笑っているのを見て、美羽は、元気と温かさを届ける、という目的が果たせたようで嬉しかった。

「はいっ、メリークリスマス……ってあ、あれ?」

プレゼントを渡し始めてから20分ほど経ち、美羽はある異変に気付く。プレゼントが入っていた袋が力なく萎んでいたのだ。

(もしかして……プレゼント、足りなかったの?)

この突然のアクシデントに、美羽は困惑を隠せない。対面するファンは、何があったのかわからず、キョトンとしている。
助け舟を求めるように、美羽は舞台袖をちらっと見るが、スタッフとプロデューサーは、この後に控えている撮影の打ち合わせの真っ最中だと言うことを思い出した。

(そそそそそんなぁ~っ!ど、どうしよう……)

このまま、ファンを置いて舞台袖に戻れば、ファンの不満が噴出してしまうだろう。なにより、美羽自身がファンに背を向けるのはあまりやりたくなかった。

(かといって……ここにいるファンのみんな一人ひとりに別々のギャグなんて今すぐは考え付かないよ~、本当にどうしよう……)

美羽の頬に冷や汗が伝う。美羽はなんとか取りつく島を探そうと、周りを見回す。ふと、美羽の目が自分の身についている装飾に行き着いた。

(わたしについてるオーナメント……今、渡せるものと言ったら、これしかない!……ならば!)

美羽は、思い切ったのか、机をどけて、ファンの前に自分の身一つで立ち尽くした。

「あ、あの……美羽ちゃん?」

当然のように、ファンは困惑する。だが、意を決した美羽は、もう迷わなかった。

「あの、ここから先のみんなは……私についている、このオーナメントを持って行ってくださいっ!」
「え、えええええっ!?」

美羽の思い切った一言に、ファンの間ではどよめきが走る。その会場のざわめきを聴きつけ、スタッフも会場の方へ眼をやる。すると、そこには美羽が思いがけない行動に出ている光景が広がっていた。

「あれはいったいどういうことだ!?」
「ぷ、プレゼントが切れたんだ!それで美羽ちゃんがあんな行動に!」
「何考えてるんだ!すぐやめさせて代替策を……」

舞台袖で、スタッフたちが困惑の声を口々にあげる。そして間もなくステージに出ようとした矢先、プロデューサーがそれを制止するように手でふさぐ。

「き、君!いったい何を……」
「すみませんが、この場は彼女に任せてやってくれませんか?どのみち、プレゼントが切れたなんてことをファンに明かせば、不満が出るのは避けられない。ならば……今は美羽がこの場を……上手く収めてくれると信じて、見守ってあげてほしいんです」

プロデューサーは淡々とスタッフをとりなす。彼の言うことはもっともであり、プレゼント不足を明かせば今美羽が失敗しようがしなかろうがファンを落胆させるのは事実だった。
スタッフたちは、プロデューサーの真剣な目つきに押し負け、足を止める。彼の言うとおりにすることにしたのだった。

ファンは美羽を見る。見ると、彼女の頬には冷や汗が伝っているのがわかった。それを察したのか、ファンは美羽の腕からボール型オーナメントを取り出した。

「ありがとう、美羽ちゃん!これ、大事にするね!」

ファンの温かいお礼の言葉が、美羽の耳にすうっと入ってくる。それは、喉を伝って胸を熱く焦がすようだった。

「う、うん!メリークリスマス!本当にありがとうっ!」

感激のあまり、美羽は上ずった声をあげる。そして、自分からの贈り物だと分かるように、手元のペンでサインも綴っておいた。それにファンは感激し、満足そうに会場を後にして行った。
それからその先のファンにも、美羽は同じようにオーナメントを取ってもらい、それにサインを入れて送るのを繰り返す。

「クリスマスツリーはいかがですか~?ツリー矢口の厳選オーナメントですよー?」

途中になると調子が出てきたのか、まるで売り子のように売り文句を挟んでもいた。その向上にファンからも笑いが巻き起こり、ツッコミを入れられもしたが、美羽は終始笑顔で、ファンへのプレゼント贈呈を終えることができた。


ファンが捌けた後、プロデューサーは、真っ先に仕事を終えた美羽の下へと駆け寄った。美羽は、プロデューサーの姿を視界に映すと、プツンと糸が切れたかのようにその場にへたり込んでしまった。プロデューサーはそれを慌てて受け止める。よく見ると、足ががくがくと震えていた。

(美羽……よほど、緊張していたんだな……突然のアクシデントに)

プロデューサーは沈痛な面持ちで、美羽を見る。彼女に任せるように進言したのは自分だが、それと同時に14の少女に、全てを任せてしまったことは、やはり責任としては重かったことをへたり込む美羽を見て感じた。

「プロデューサーさん……あはは、少し足が震えちゃって、立てなくなっちゃいました。どうしたらいいかわからなくて……」
「すまん、美羽。何もできなくて……」

信じていた、と言えば体がいいが、要は美羽に投げてしまった。そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、美羽はまた笑う。今度は、作り笑いではなく、純粋な笑顔だった。

「でも、ファンのみんなにちゃんと元気届けられて、よかったですよ。ツリー姿のわたしもウケましたし。人間クリスマスツリーは、大成功ですねっ」
「ははっ、そうだな……」

美羽につられて、プロデューサーも優しく笑う。申し訳ない気持ちはあったが、美羽の得意げな話を聞くと、楽しくなるのも事実だった。彼は、自分の担当するアイドルの確かな成長を感じていたのだった。

「さあて、次の撮影まで、少し時間ありますよね?休憩、してもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。頑張ったもんな」

美羽はゆっくりと立ち上がり、大きく息を吐く。すっかり緊張の糸が解けた美羽を見て、プロデューサーは、また優しく笑った。

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